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米澤穂信「満願」

やっぱり米澤さんは短編のが好みかも。些細な違和感から真相に繋がり
1つ1つがちゃんとミステリしてたし、丁寧かつ底がざらりとするような少し
だけ人間の裏のほの暗さを感じる6編。
「夜警」は新人警官の殉職を巡り上職にあった主人公は、美談とも称される
一件の裏に歪んだ動機を知る。実兄が語る「小心者なのに開き直ると度胸が
ある。そんな立派な死に方をするような奴じゃなかった」という人物像を聞き
当日起こったことを改めてなぞっていくと浮かび上がる、彼の思惑。
「死人宿」はかつての恋人との復縁を求めて訪れた温泉旅館で、自殺を
仄めかす手紙から該当者を探す話。前半のさらりとした一文が鍵。恋人の
ラストの言葉からももう彼女自身あの宿に馴染んでしまってるし戻る気なんて
なさそうなのも、ラストの村人の言葉からもわかる…。
「柘榴」は母の望みは知らず知らず2人の娘へ受け継がれていた。美人姉妹の
背徳的な画策、その中でも姉から妹への嫉妬による先制。どこまでも女な2人が
辿るであろう未来には破滅しかない気がする。どこか倒錯的なお話。たぶん
好きな人はめっちゃ好きになるやつこれ。
「万灯」は冒頭の「私は裁かれている」に戻るラストが効いている。海外で事業
展開に臨むビジネスマンが、直面した問題に対応するために取った行動が、
思わぬ形で自らを追い込んでいく。因果応報というか自業自得なんだけど、こう
持ってくるか!って驚きがあっていいね。
「関守」は都市伝説の記事を書くため訪れた取材先近くの店で、女主人から一帯で
起こり続ける事故の話を聞く。後半のじわじわ真綿で首を絞められているような、
でもその場から逃げることのできない感じと結末が、いい!世にも奇妙な物語とか
でやってみてほしいな。
「万願」は表題作。かつて世話になった下宿先のおかみさんのため、弁護士に
なった主人公が彼女の刑期後に事件を振り返る。彼女の願いは何だったのか、
守りたかったものがなんだったのかが鮮やかに浮かび上がる。

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