恩田陸「蜜蜂と遠雷」
主役はコンクールそのものだな、と。
芳ヶ江国際ピアノコンクールで2週間にわたって競い合う天才ピアニスト達。
一度ステージに背を向けたかつての天才少女。
万人に愛される才能とスター性を秘めた多国籍ハイブリッド王子。
地に足をついた生活を送りながら生活者の音楽を奏でる一児の父。
亡き巨匠の推薦状を持って現れたコンクール未経験のダークホースの少年。
コンクールの予選から本戦まで、コンクール出演者、彼らを支える師、審査員、
調律師、ステージマネージャーなど様々な人たちの緊張と興奮、喜びと落胆、
何より音楽に対する情熱を描いた本作。
原作はお馴染みの恩田陸さん。
書き始めるまでに5年かけたという綿密な調査で、素人には未知のピアノの
コンクールという独特の世界を描き切っています。
もちろん天才たちが競い奏でるピアノコンクールなので、音楽の表現も
多彩。特に小説で文学以外の芸術分野の天才を描くのって難しいと思うんだけど、
(天才的な演奏、天才的な画家の絵など)、演奏を聴く者の感情を揺り起こす
表現と固有結界というかマエストロフィールド的な?つまり演奏者のイメージ
する楽曲の世界を心象風景として出すマクロな描写と、聞き手のぽろぽろと零れる
ツイートのような、でもステージ上の音楽に揺さぶられた個人的なミクロな感情と
で、何人もの、何曲もの演奏を表現しています。
ほんとピアニストたちはなんでこんな過酷な世界で生きてるんだろうと読者に
思わせつつ、ステージ後の彼らの興奮を見るとそれも仕方ないのかもしれない
と納得させられてしまう部分もあったり。
コンクール後にこれまでの道を再び、また新たな道を歩き始めたピアニスト達の
その後については描かず、コンクール本選を描くところまでで
人間の最良の形が音楽だ
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