有栖川有栖「インド倶楽部の謎」
久しぶりの火村シリーズの長編。結構前に買ったのを時間をかけて
ちょこちょこ読み進めておりました。
舞台は神戸。
インドでの前世を共有する<インド倶楽部>のメンバーが相次いで
殺される。その死は、運命の全てが記されたアガスティアの葉で
予言されていたのか―?
フーダニットとホワイダニットを行ったり来たりしつつも、いつもの
有栖川ミステリのようなガチガチの論理ミステリを期待していると
たぶんちょっと拍子抜けかも。
トリックらしいものもなく、犯人の決め手や動機もふんわりとしている。
(まあ、火村本人も自覚してたようなんだけど)
中盤で明かされるある過去の事件の方がドラマティックかもしれない。
でも長編だけあって、火村とアリスの綴る物語としてはさすがに面白いし、
何より私は火村たちを通じて示される有栖川先生の思想や考え方がとても
好きなんだなあと実感。
佐分利との対談で「凶悪事件の被害者は、前世で理不尽に人を殺している。
来世では救いがある」という因果応報説に声を震わせるほど怒りを見せた
アリスの肩を叩いて落ち着かせ、自分が代わって相手と対峙する火村先生は
かっこよすぎたな…!
あと、2人の役割分担や関係性について第三者が言及しているシーンが
多くて、面白かった。
出会って1時間そこそこで「ソウルメイト」「深く理解しあってる」って
言われたり、「謎を解くのは(火村)先生で、あんた(有栖川)が物語を
完成させるんかな」なんて言葉も。
個人的には火村も他者との同調や教官について「こういうのは有栖川の方が
得意なんです」って言ってたことも、へーってなった。やっぱそう思って
たんだな。
真犯人がアリスに告げた「有栖川だけはわかってくれるだろう?」という
言葉も気になるね。これ、つまり誰にも理解されることがないと思ってた
自分の行為を探り理解しようとする者が現れることの喜びをアリスが理解
してるからこそ、そのために火村の傍にいるんだろ?ってことなのかな。
前世、過去という自分には触れることもできない、変えることもできない
ものに振り回される人たちを見た後に、「やりたいことがあるから。それ
に向かっていくところだから」「来世は、明日です」と語る若い彼女の
言葉に、火村たちも読者も少し救われる気持ちになるね。
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