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書籍・雑誌

米澤穂信「真実の10メートル手前」

フリーのジャーナリスト太刀洗万智が取材した6つの事件を描いた短編集。
一人称で描かれた表題作を除いては、クールで感情の読みにくい主人公が
事件によって受けた爪痕の深さはわかりにくい。
人の命に係わる事件を取り扱うためそもそもハッピーエンドになりにくい
ものの、単に犯人がわかった、犯人の心境が推測できたというだけでなく、
どこか突き放したような残酷さがあったな。なんというか、ほうらちょっと凝った
予想外のエンドだよってあざとく提示される結末じゃあないんだよね。もっと
救いがない。万智も事件の謎を解きながらそれを淡々と記事にするだけで。
印象に残ったのは、「名を刻む死」のラスト。事件に囚われた聡明な少年の心を
解放するために自ら良しとしないであろう「結論」による断罪。
「ナイフを失われた思い出の中に」でも、同じように一見クールに見えた彼女の
優しが垣間見られるのだけど、これは過去作の後日談になってるみたいなので
そちらを読んでいるとまた感慨深いのかもしれないですね。

長江俊和「出版禁止」

著者名とタイトルでピンと来た方もいるかも。フェイクドキュメンタリー番組
「放送禁止」でお馴染みの映像作家(小説家でもあります)長江さんの
小説です。
コンセプトは「放送禁止」と同じく、ある事情で出版禁止となってしまった
ルポを著者に代わって長江氏が発表したという体裁。やはり本作にも
ルポの表面をなぞっただけではわからない、「あなたには真実が見えました
か?」という隠された言葉遊びや仕掛けがあって、それを探りながら読み
進めていくことになります。

結局、カミュの刺客は著者だったってことかな。最後はだいぶやばい状態に
なっちゃってましたね…。

友理潤「太閤を継ぐ者-逆境からはじまる豊臣秀頼への転生ライフ」

現代の高校生男子が関ヶ原の戦い直前の豊臣秀頼(7歳)に転生した…
謎の少女の依頼に答え、割とカジュアルに豊臣秀頼への転生をOKした
主人公・太一(主人公一人称の上、周囲からは秀頼様と呼ばれるので
この名前ほとんど出てこない)が、戦国の知識を活かし豊臣家滅亡を
回避するため奮闘する物語。
やっぱり歴史の敗者による一発逆転if物語って面白いよね。日本人、
判官びいきあるから歴史の敗者に肩入れしがち…。
書籍ではざっくりいうと関ヶ原直前から真田幸村の復帰まで。大阪夏
冬の陣はこれからなので「俺たちの戦いはこれからだ!」的終わり方
なんですが、ネット連載では最後まで描かれています。
一度家康と和睦を結んで現代に帰ってから後の彼の所業を教科書で
知って家康を罵っちゃう辺りから大阪の陣の勝利までの流れは、
テンション上がりました。史実の通り死んじゃう人もいるし、石田三成の
ように史実に反して生き残る人もいるし。というかやっぱり豊臣滅亡の
道回避のまず第一報は関ヶ原後の石田三成の生存確保だったんだなあ。
キャラクターとしては真田幸村と千姫が好きです。時々主人公の存在が
忘れられるくらい周辺の武将たちのエピソードも満載で、結城秀康とか
亀姫とか初めてちゃんと知りました。
主人公の太一は、あまりに戦国時代と豊臣秀頼としてのライフに馴染み
すぎてて、未来から来た男子高校生っていうアイデンティティが消滅してた
気がする(笑)。
現代若者が過去の有名な武将と入れ替わって…っていうと最近だと
信長協奏曲を思い出すけど、あっちは歴史は詳しくない男子高校生が
織田信長と入れ替わっちゃう話だけど、現代の柔軟な思考や身分に
とらわれない分け隔てない接し方で周囲の家臣たちの心を掴んでお家も
発展していく話だったんだよね。だから現代の男子高校生である主人公が
タイムスリップする意味もあったんだけど。
本作の場合はかつて一度死んだ秀頼がその記憶を持ったまま人生を
リトライしてますって言われても違和感ない感じでしたね。そこが惜しい
というか作者の方が人気投票で主人公に票が入らないって言ってた
とのこの理由でもあるのかも。
同じく票が入らないと作者に嘆かれていた徳川家康については、私は
人間味ある好々爺と愛を切り捨てる非情の天下人と引くべき時に引けない
老いを拗らせた良い描かれ方をしてたと思います。
 
細かい?もあって、例えば二度目に現代の太一を迎えに来たのはなぜ
甲斐姫だったのかとか、本来の秀頼はどうなってるのかとか、最後に
千姫と一緒にいた秀頼は本来の秀頼なのか、とか。千姫は中身は太一の
秀頼のことが好きっぽかったけど、本来の秀頼にも惹かれていったのかなあ。

乾くるみ「リピート」

深夜のドラマ版を偶然見て面白かったので、原作小説を買って
しまいました。作者は名前は聞いたことある(映画化した小説の
作者だってことは知ってました)のですが、読むのは初めて。

10か月だけ時を遡ることができた10人の男女だったが、その先
で一人また一人と不審な死を遂げていく…。所謂タイムリープ物
なんですが「リプレイ」+「そして誰もいなくなった」とのこと。
原作版と私が見ていたドラマ版とはキャラクターの名前こそ同じ
ですが人物造形や性格がだいぶ違いますね。
まずドラマ版だと主人公はプロポーズに失敗した図書館司書の
鮎美ですが、小説だと大学生の圭介。鮎美も圭介もそれぞれドラマ
にも小説にも出てきますけど、ドラマで本郷奏多くんが演じる圭介は
カメラマンの夢破れてフリーターやってる少し斜に構えたぶっきらぼう
な青年だけど、小説版の圭介は巻き込まれがた主人公によくいる
タイプというか、適度にまじめで適度に軽くてチャラくて適度に人を
信じやすくて適度に迂闊(笑)。途中でストーカーの恋人を殺しちゃ
った辺りでハピエンはないなとわかったのですが、最後はまさに
「そして誰もいなくなった」。誰も救われないなあ。
確かに今回のタイムリープした10人のうちR0からリープし続けて
きた風間と池田以外は本来の歴史では死ぬ運命だった人間で
それを風間達の介入で防ぎ、新しいリピート先でどうなるのかを見て
楽しむ退屈しのぎだったっていうのは結構面白かったけどね。
しかしドラマ版も同じ結末なのかなあ。確かにドラマの圭介も短気っぽい
し由子殺しちゃいそうなとこあるけど、年上の鮎美に対しては最初は
馬鹿にしつつも励ましたりゲス恋人から庇ったりでいい感じじゃない
ですか~ちょっとここだけ月9っぽいって思っちゃいましたよ。
できればハピエンがいいなあ。

金沢伸明「王様ゲーム 臨場」

はい、デスゲーム系小説読みたい期間が来ましたよっと。
今回はアニメで見ていた「王様ゲーム」シリーズの原作小説です。
実はこの「王様ゲーム・臨場」はシリーズ3作目。でも読んでて気づいた
んですが私が見ていたアニメ版がちょうど小説1作目と2作目を合体させた
構成になってたみたい。だから続きから読めてちょうど良かったのかも。

飲み会の定番・王様ゲームですが、本シリーズでは命がけ。高校生の
あるクラスに王様と名乗る相手から命令が届き、それに従わない生徒
が次々に命を落としていくというもの。
アニメ版の主人公である伸明は転校先も含めて2度の王様ゲームに
巻き込まれ、2作目の最後で命を落としました。王様の正体は人間
ではなくウイルスで、そのウイルスに感染した伸明が生きている限り
王様ゲームは終わらないからという理由だった気がします。
伸明の前の学校での恋人だった心優しい本多智恵美と、転校先の
学校でのクラスメートで皆の不安を煽り自分だけでも生き残ろうとする
本多奈津子の二人は、夜鳴村出身の姉妹で、奈津子もまた伸明と
同様に過去の王様ゲームで唯一の生き残りになったんですが、その
奈津子が最初に体験した王様ゲームを描いたのが「臨場」です。
思ったんだけど奈津子を手放したお父さん、自身もかつて王様ゲーム
に参加して妻の奈津子を殺してしまったっていう経験を持ちながらなぜ
娘に嫁と同じ名前をつけたん…?
この手のデスゲームって理不尽なようでもルールがあって、主人公
たちが最後にはその謎と黒幕の正体に迫り少人数でも生還するって
いうカタルシスが欲しいんだよね…。王様ゲームはそれがないんだよなあ。
実はクラスメートの中に黒幕が!とかでもいいんだけど。
それともこの先のシリーズを読んでいくとちゃんと黒幕が出てくるのかな。
本作は奈津子の体験した最初の王様ゲームの記録を、王様ゲームを
携帯小説や都市伝説好きの女子高生が見つけるところから始まるんだ
けど、やっぱりそのへんの謎は明かされないんだよね。アニメ版、つまり
小説だと前2作で王様の正体はウイルスってとこまではわかるんだけど
対抗策がないから主人公の死んじゃって誰も生き残らないのよねえ
 

湊かなえ「Nのために」

ドラマの好評は聞いていたのでいつか読みたいと思っていたのですが、
この正月にちょっと思いがけず時間ができたので一気読みしました。
とあるタワーマンションで暮らす夫妻の死亡事件について、その場に
居あわせた4人が語るというもの。勿論彼らが正直に全てを語って
いるというわけではなく…という、原作者お得意の型ですね。
ドラマ版と結末は違うのかかな?意外な真相というわけでもなく、4人
の心の向く先、つまりNのためにの意味が解き明かされていく話の
ように感じました。
そして彼らの想いは少しずつすれ違っているんですよね。
杉下は安藤のために、成瀬は杉下のために、西崎は奈央子のために。
安藤は杉下が好きで、杉下は結局安藤のことが好きだったのかな。
誰の想いも成就しないけど、みんな自分の大切なNのために行動した
という。
ラストは余命を宣告された杉下が成瀬と一緒に過ごすんだけど、杉下の
心はどこにあるのかな。高校時代に守った成瀬か、今回守った安藤か。

是枝裕和/佐野晶「三度目の殺人」

役所広司、福山雅治、広瀬すず出演映画の小説化。
二度目の殺人の罪を問われた三隅の弁護を行うことになった重盛。
三隅の供述に翻弄されながら、重盛は裁くこと、真相を追及することと
向かい合う。

とにかく三隅が捉えどころが無い。二転三転する供述もさることながら
愛想笑いを浮かべ恭順なようでいて空虚な器のように心根の芯が感じ
られないところが不気味ですよね。
そして、物語の結末として「真相」は語られない。咲江が手を下したのか、
咲江は教唆したにすぎないのか。どちらにしろ三隅は死刑になった。
咲江を救いたい三隅と、三隅を救いたい咲江。
重盛は自分の娘を不幸にした自身の経験から三隅の希望を採った。
それは三隅の死刑を選んだことであり、命を裁いたことでもあった。
それが「三度目の殺人」なのかな。

これはやっぱり重盛の物語なんだと思う。勝ちにこだわる弁護士として
真相に興味無く、法廷戦術を駆使することで生き抜いてきた重盛が
最後には「本当のことを教えてくれ」と強く望むようになる。
でもきっと本当のことなんてものは、「器」に誰の感情を注ぐかで変わって
しまうものなんだということもわかっていて、それでも真相を知りたいと
願うなら、きっと重盛は弁護士として人として変われたんだろうな。
娘との関係も改善しそう。

恩田陸「木漏れ日に泳ぐ魚」

恩田さんのお得意とするパターン、といいますか。
明日には別々の道を行くことになる男女二人が、とある男の死の真相について
語りあっていくうちに、お互いの関係性がまた全く違うものになっていくというもの。
複数の人間が集まってある人の死の真相についてひたすら語りあっていく形式
は恩田作品には多いんだけど、これは語りが男女2人だけだし、関係性もわりと
シンプルに恋愛関係(基本は)なので、わかりやすいっちゃわかりやすいし、これ
までの恩田さんのこの系統の作品の色々な部分を削ぎ落とした作品ともいえる
かな。
男の死については一応の真相とおぼしきものが提示されるんだけど、それも
またあくまで一晩の語りのうちからの推論であり、それが唯一の真実である
とも断定できない。

畠中恵「ぬしさまへ」

9月にミュージカル舞台で見た「しゃばけ」シリーズの1冊。松之助が主人公の
「空のビードロ」他、5品収録。
そう言えば、舞台版ではほぼ主人公の一太郎の出番が無かったからこうして
まともに動いて喋ってる様子を知ったのはこの原作でやっとかも。まあ、大抵
寝込んでたけど(笑)。あと仁吉も今回の舞台版には出てなかったから。
でも「虹を見し事」で、舞台でも見た「空のビードロ」の最後で長崎屋の奉公人に
なった松之助のその後の様子がちょっと見られて良かった。一太郎の方はそん
な風に思ってなさそうだけど、松之助はまだまだ遠慮がある感じだよね。続編
見るともっと兄弟っぽくなってるのかなあ。舞台でも植田くんの一太郎と平野くんの
松之助を見たいです。
お話としては綺麗にオチのついた「仁吉の思い人」が良かったな。

思った以上に若旦那体弱いのな!そして若かった17歳。とは言え当時の感覚なら
17歳ってもう成人だろうしね。頭も良いし気もいいし、体が弱いところ以外は将来性も
ありそうな一太郎だけど、「虹を見し事」の最後、甘やかされている自覚のある自分
とは言え、いつか店や奉公人達を背負えるようにできることをしたいという若々しい
悩みを持って、今後どう成長していくのかも気になるよね。

米澤穂信「満願」

やっぱり米澤さんは短編のが好みかも。些細な違和感から真相に繋がり
1つ1つがちゃんとミステリしてたし、丁寧かつ底がざらりとするような少し
だけ人間の裏のほの暗さを感じる6編。
「夜警」は新人警官の殉職を巡り上職にあった主人公は、美談とも称される
一件の裏に歪んだ動機を知る。実兄が語る「小心者なのに開き直ると度胸が
ある。そんな立派な死に方をするような奴じゃなかった」という人物像を聞き
当日起こったことを改めてなぞっていくと浮かび上がる、彼の思惑。
「死人宿」はかつての恋人との復縁を求めて訪れた温泉旅館で、自殺を
仄めかす手紙から該当者を探す話。前半のさらりとした一文が鍵。恋人の
ラストの言葉からももう彼女自身あの宿に馴染んでしまってるし戻る気なんて
なさそうなのも、ラストの村人の言葉からもわかる…。
「柘榴」は母の望みは知らず知らず2人の娘へ受け継がれていた。美人姉妹の
背徳的な画策、その中でも姉から妹への嫉妬による先制。どこまでも女な2人が
辿るであろう未来には破滅しかない気がする。どこか倒錯的なお話。たぶん
好きな人はめっちゃ好きになるやつこれ。
「万灯」は冒頭の「私は裁かれている」に戻るラストが効いている。海外で事業
展開に臨むビジネスマンが、直面した問題に対応するために取った行動が、
思わぬ形で自らを追い込んでいく。因果応報というか自業自得なんだけど、こう
持ってくるか!って驚きがあっていいね。
「関守」は都市伝説の記事を書くため訪れた取材先近くの店で、女主人から一帯で
起こり続ける事故の話を聞く。後半のじわじわ真綿で首を絞められているような、
でもその場から逃げることのできない感じと結末が、いい!世にも奇妙な物語とか
でやってみてほしいな。
「万願」は表題作。かつて世話になった下宿先のおかみさんのため、弁護士に
なった主人公が彼女の刑期後に事件を振り返る。彼女の願いは何だったのか、
守りたかったものがなんだったのかが鮮やかに浮かび上がる。

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